参考文献
ここでは、軍艦「武藏」に関する書籍等を紹介しています。入手可能なものは画像をクリックしていただくとAmazonのリンクへ繋がります。
<武藏関連>
『戦艦武蔵』
吉村昭=著
新潮社版
1966年発行
本書によって、姉妹艦「大和」の陰に隠れた存在だった「武藏」を、世に広く知らせる切っ掛けになった。内容のほとんどは三菱長崎造船所における「二号艦(後の「武藏」)」建造の過程を、造船所職員たちの労力と工夫、情熱を通し、人間ドラマとして描いている。
一方、就役後の「武藏」の日常と、圧倒的な米航空機隊との激闘を演じた末の沈没と漂流、さらに生き残った乗員たちの苦難については、五分の一程度のページ数しかなく、多少物足りない。また、海軍の考証や事実関係に間違いが幾つか見受けられたのは残念だ。
それでも「武藏」を描いた書物としては、傑作であることに変わりはない。
『戦艦武蔵ノート』
吉村昭=著
図書出版
1970年発行(文春文庫版、岩波文庫版あり)
『戦艦武蔵』の著者が、書籍完成に至るまでの経緯を回想したものである。内容は『戦艦武蔵取材日記』と『戦艦武蔵資料』の二編からなっている。『取材日記』については、興味深い話が満載されている。取材時に関わった多くの関係者とのやり取りや、資料を読み解いていく過程などは、下手な小説など足元にも及ばないほどに、興味深く感動的だ。「武藏」という軍艦を通して、戦争の時代に生きた日本人を描こうとする著者の姿勢が鮮明に浮かぶ。また、『資料』は短いながらも、「武藏」に関する情報が詰まっていて、貴重だ。
以上、本書を『戦艦武藏』と併せて読めば、より「武藏」が理解できるのではなかろうか。
『戦艦武蔵レイテに死す』
豊田穣=著
講談社
1983年発行(光人社NF文庫あり)
「武藏」のシブヤン海における戦闘と沈没、漂流、続くその後の乗員たちが辿った過酷な足跡が語られる。また、「武藏」にまつわる様々なエピソードがちりばめられていて、さすがに海軍兵学校出身の士官の筆だけに、帝国海軍に関する描写は正確である。
ただし、ノンフィクションの内容を期待すると肩透かしを喰うだろう。全編が一種の小説調に脚色されていて、特に乗員の会話は明らかに作り物で、真実の「武藏」物語には程遠い代物だ。気楽な脚色戦記本と承知して読むのならよいが、「武藏」の真実を知りたければ手に取る必要のない書籍である。
『戦艦武蔵の最期』
渡辺清=著
朝日新聞社
1971年発行
著者は戦後、「天皇の戦争責任」を問う反戦運動家として活動した。この本には、「武藏」の機銃員として艦内生活と対空戦闘の体験が収められている。ただし、主人公(書き手)の一人称としてノンフィクション風の体裁をとっているが、一方では三人称として小説風に仕上がっていて、読むものを混乱させる。
また、艦内の描写も想像の域を出ず、ましてや戦闘場面となれば、自身の配置である機銃台以外は、戦記本や雑誌からの引用でしかなく、まったく事実と相違している。唯一価値があるとすれば、兵隊間で交わされる会話で、さすがに真実味を覚える。ほかに「武藏」をモデルにした小説『海の城』(朝日選書)があるが、これも兵隊の被害者意識を前面に押し立てた駄本でしかない。
『戦艦武蔵の最後』
佐藤太郎=著
芳賀書店
1963年発行
機銃分隊の古参下士官が書いた回想記である。ただし、実録ものと銘打っているが、内容の多くは創作で、下手な小説と思えばよい。その一例は、猪口艦長が腹を切り、その首を越野砲術長が切り落としたと書いてあるが、そんな馬鹿な話はない。なぜならば、沈没直前に艦長と会話している若い士官がいるからだ。
これだけではなく、随所に時と場所が整合しない場面が出てきて、混乱させられる。それでも読むだけの価値はある。艦内生活を細かに描写した部分は、さすがに艤装から沈没までの間、「武藏」に乗艦していただけに、真実味が感じられて貴重だ。
『古い思い出』
古賀繁一=著
私家版
1992年発行
本書は三菱重工業(株)で社長や会長の重職を務めた著者が、「武藏」の建造主任附として携わった時の回想記である。建造内命を受けた三菱長崎造船所の準備からはじまり、機密保持の苦心、建造の実情と進水作業に至るまでの問題点など、興味深い話題は尽きない。
『主要関係員ノ氏名』には、建造に関わった海軍側の艤装員(准士官以上)と監督官、会社側の所長以下職員たちの氏名や職名、在勤期間や配置などが、克明に記されている。ほかにも、『軍艦建造事情記』や『渡辺建造主任の手記』など、「武藏」が造られるまでの経緯を知る上で貴重な資料が収められている。
『戦艦武蔵建造記録』
牧野茂/古賀繁一=監修
アテネ書房
1994年発行
「武藏」建造の基本計画からはじまり、建造の準備と過程、竣工、進水、艤装、そして沈没までの経緯を詳細に記した書籍である。監修者は「大和」の建造に携わった元海軍技術大佐の牧野茂と、「武藏」の建造主任附として建艦までの全工程に立ち会った三菱長崎造船所の古賀繁一である。したがって内容は、造船工程と船体構造についての専門的な解析と検証が大部を占めている。付録として大判の図面(艤装図・中央断面図)があり、「武藏」の艦内や外観が詳細に描かれていて、その直線と曲線を辿っていると飽かない。「武藏」を造船の技術面から知るのには、必携の書である。
『戦艦武蔵乗組み記』
吉野伊三郎=著
エーワン出版
1982年発行
筆者は軍属の剃夫(床屋)として「二号艦(「武藏」)」の艤装時代からはじまり、「武藏」の艦内生活、そして戦闘と沈没、さらに内地に生還するまでを記した回想記である。床屋だけでなく洗濯手(洗濯屋)や上級士官食事を作るコックなどが登場して、彼らの仕事ぶりや戦闘時の働きなども描かれていて、士官から下士官兵が語る軍艦の話とは一味も二味も違って面白い。特に書き添えるとしたら、筆者の観察眼と記憶の正確さ、さらにはこの手の戦記物に多々見られる過剰な描写や、哀感調の湿り気は一切なく、淡々と事実のみを書き残したいという乾いた筆致は、読む者に真実感を覚えさせる。何よりも文章が簡潔かつ的確で、読み心地のよい一冊になっている。
多くの方に推薦したいのだが、残念ながら絶版になっているので、運が良ければ図書館で手に取れるかもしれない。
『戦艦「武蔵」の真実』
手塚正己・時実雅信・大塚好古他=著
学研パブリッシング
2015年発行(ムック本)
米国人実業家ポール・アレンによって、シブヤン海の水深1100メートルに「武藏」が発見された年、この本は作成された。
海底に散乱する船体の残骸を収録した画像を元に、CGで再現した被害の全容に迫るとともに、実写で確認された「武藏」の艦橋をはじめとする諸装置を解説している。また、同型艦の「大和」との違いについても、立体画面と船体図、写真を交え詳細に比較検討がなされていて興味深い。さらに「武藏」の誕生から、シブヤン海の対空戦闘、沈没と乗員の漂流を経て、生き残った者たちのその後の過酷な運命を描いている。
「武藏」に興味のある方は、見て読む一冊として、是非手元に置くことをお勧めする。
『軍艦武藏』上下巻
手塚正己=著
太田出版
2015年発行(他に初期単行本版・新潮文庫本版)
本書は「武藏」の誕生から、艦内生活と航跡、五次に亘る対空戦闘と沈没、漂流三分の二を費やして描いている。残りは生き残りたちの過酷な運命を、これも微に入り細に亘り追っている。ただしその筆致は、戦記本にありがちな、記録中心の硬質なものではない。生の将兵の生き生きした姿と心情が綴られていて、時には笑い、時には同情し、時には泣かされる。
従ってノンフィクションでありながらも、小説本として読めるほど、随所にドラマチックな展開が待ち構えているといった、胸躍る物語になっている。これほどに、多数の証言と膨大な日米資料を駆使して綴られた戦争の記録は他に例を見ない。ここには、「武藏」乗組員として生き、死んでいった昭和の男たちが描かれている。
『軍艦武藏取材記』
手塚正己=著
太田出版
2004年発行
『軍艦武藏』の著した者が、完成に至る十余年に及ぶ年月の記憶である。想像などでは、とても書けるような物語ではない。作家は「武藏」元乗員、遺族、関係者のもとへ足繁く通って取材を重ねた。生と死の狭間を描く。しかし所詮は他人事、書けるわけがない。しかし、いくら証言を得て、記録を入手したところで、本人には実感が伴わない。
そこで作家は、「武藏」終焉の地点シブヤン海で、木片と小さな丸太だけを頼りに、誰にも頼らずに四時間に及ぶ漂流を試みる。さらには、「武藏」沈没後に乗員たちが逃避行したアゴス川流域の通称「死の谷」で、二合の糧食のみで、三日間の踏破に挑む。途中、幾つもの日本兵の白骨を目にする。現地人も恐れる追体験、ここまで命を顧みない作家がいただろうか。この回想記には、書き手の執念と凄味が詰まっている。
<海軍関連>
『戦藻録』
宇垣纏=著
原書房
1968年発行(他に日本出版共同版・PHP研究所版)
宇垣纒少将(のち中将)が太平洋戦争直前の昭和十六年十月十六日から終戦の二十年八月十五日に航空特攻で戦死するまでの期間を書き綴った戦争日誌である。
開戦した月に、「武藏」最後の艦長猪口敏平と、興味深いやり取りについて触れている。またシブヤン海での対空戦闘のでは、満身創痍となって戦い抜いた「武藏」と猪口艦長以下乗員に対する敬意と、哀惜の情があふれている。現在広く知られている猪口艦長の絶筆となる報告文は、宇垣が日誌に書き留めたものである。
戦争体験者が著した記録としては、この一冊に勝る書籍を知らない。文章は文語体の上に、海軍の特殊用語で綴られているので、読み辛く難解だが、それでも海軍の戦争の真実を知りたいのなら、是非挑戦したら如何。
『帝国海軍の伝統と教育:戦艦武蔵初代艦長南西方面艦隊参謀長有馬馨の遺稿』
有馬馨=著
五曜書房
2001年発行
軍艦武藏の艤装員長・初代艦長を務めた、有馬馨海軍中将の遺した史料を遺族が纏めた本である。
有馬中将が実際に使用した教示資料を中心に纏められており、海軍部内で行われた"教育"の一端を明らかにしている。
帝国海軍という組織を改めて見直す際に、一助となる一冊ではないだろうか。